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髙橋比呂子句集『風果』




 髙橋さんは難解俳句を能くする「LОTUS」にあって、比較的分かる句を書く人だと、小生は認識している。この句集は第五句集であろうか、このほか彼女には俳句関係の著作が、『修羅と永遠 西川徹郎集成』など、数多い。なお、句集名『風果』(ふうか)は彼女の造語で、風の吹くまま進んできた結果もろもろ、という意味であろうか。2023年12月12日、現代俳句協会発行。


 一読して、今回の句集もオリジナリテイに富んだ作品がぎっしりであった。予定調和の句が一つもない。ご本人もあとがきに「俳句とかかわるようになってからは、言葉との格闘である。俳句が芸術であるならば、同じものは要らないと思う。だから、常に、これまでとは違うものをと願い、俳句を作り続けてきた」とある。他の人とも、過去の自分とも違う新しさに挑戦しているのである。

 

 難解な作品もけっこう多かったが、中から小生が分かる句、分からないまでも何かを感じさせてくれる句を選んでみた。次の通り多きに達した。


011 ミモザ咲くあんだるしあを弄ぶ

044 永遠とはまがるものなりとろろ汁

045 枕詞のようないちにちすぎにけり

048 瀧壺の絶対という暗部かな

051 半夏生われとわがみのこと難解

053 花野からくる美しき傀儡かな

061 かぜよりじゆうに小面のしろさかな

063 鰈とわたしはるのよをおよぐ

074 天上に瀬音ありなむ那智の瀧

087 沈丁花ひらりとあそび白髪す

089 ひゆうがなつかなしものにひるのつき

100 こんぷらいあんす巣ごもりもこすもすも

107 萩のみち爪染めて尼寺へゆく

108 ワインの栓スポンと晩夏ぬすまれる

111 水切りの少年はるか曼珠沙華

113 冬怒濤やまぬ東山魁夷の襖

115 冬月をくわえし犬の遠吠えや

118 点と線つむいで終の棲家とす

120 白壁に虹の侵入ゆるさぬなるしすと

125 向日葵やまわりみちして微熱

128 黄泉まではなだらかなりし牛歩かな

129 河童忌や甲乙つけて不実なり

130 葛切や遊戯のように告白す

137 ほとやかれかむさりてよもつひらさか

146 おほけつひめめよりいなほほとにむぎ


 この句集のはじめの部分は、スペインやアラブやユーラシアにかけての吟行句と思われる作品が多く、しかも地名が「あるはんぶら」「あんだるしあ」などとひらがなで書かれており、妙な魅力を感じた。また末尾には日本の神話をベースにした作品が並び、これもひらがな表記であった。ひらがな表記は漢字表記に比較して、意味よりも音を楽しむ余裕を読者に与えてくれる。


 幾つか鑑賞したい。平明なものだけになったが、許されたい。


011 ミモザ咲くあんだるしあを弄ぶ

 ミモザと言えば小生はイタリアの春を思うのだが、スペインのアンダルシアも似たような気候なので、春は黄色のミモザが咲いているであろう。観光客が必ず行くのが「アルハンブラ宮殿」。イベリア半島がアフリカの回教徒に占有されていた歴史と文化が目の当たりにできる。「あんだるしあ」とひらがな表記されると、「弄ぶ」という言葉に引きずられて、何か特別な愛玩物であったり、アラブ風の舞姫を思ったりする。そしてやがて、モザイクの美しい宮殿や真っ白い街ミナスへ想念が広がって行く。たのしい句である。


089 ひゆうがなつかなしものにひるのつき

 言われて見るとそうだなあと思う。日向夏は大きめの蜜柑で明るい黄の色をしている。一方で昼の月もまあるくて黄色というよりは白っぽい。たしかに存在感がなくて、ものがなしい。この句、見たての句だと言って片付けられない。「ひるのつき」のもの悲しさが「ひゅうがなつ」(味もわりに淡白)にまで乗り移って来るから不思議である。ひらがな表記の効果であろう。


128 黄泉まではなだらかなりし牛歩かな

 「黄泉平坂」の「平坂」は名の通り、平らな坂と書く。そこまではのんびりと牛歩で行こう、という俳諧味のある句。高橋さんにしては、珍しい句柄の作品ではなかろうかと思ったが、〈063 鰈とわたしはるのよをおよぐ〉というのんびり志向の句もあった。


 就中、もっとも印象的な句をひとつ挙げて終ろう。。


051 半夏生われとわがみのこと難解


 実に興味ある句集でした。



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