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髙橋紀美子句集『天空の星』



 見識の句集である。

 髙橋さんの第一句集(ふらんす堂、2021年12月6日発行)。2000年に有馬先生の「天為」に参加、のち「未来図」にも加わっている。有馬先生には句集を出すことを了解戴いていたが、急逝されたのがショックであったらしい。〈師の一句一句を胸に枇杷の花〉が自選句にあるし、小生が戴いた216の句もその折のことであろう。現在は「天晴」に所属し、津久井紀代さんの指導を受けておられる。序文は津久井さん。


 自選の12句は次の通り。


  元朝の濤たひらかにいのち祝ぐ

  あをによし奈良に茶粥の七日かな

  水温む地球にいのち生まれし日

  風光るペットボトルの潜水艇

  義肢の子の走る校庭春疾風

  デルフォイの地球の臍へつばくらめ

  馬洗ふ少年の顏夕映えて

  涼新たニホニウムある周期表

  花ひとつ刺し終へ二十三夜月

  黄落や味噌蔵に干す木の柄杓

  師の一句一句を胸に枇杷の花

  冬の星出そろひギリシャ神話かな


 小生が戴いた句は次の通り多数におよんだ。(*)は自選と重なった。


014 義肢の子の走る校庭春疾風(*)

015 水槽の蝌蚪を毎朝見にくる子

019 点滴の管さげし子も雛の宴

026 朝顔を大きく咲かせ夫無職

037 あちこちを向く校庭の雪だるま

057 どうしてが口癖の子や寅彦忌

058 箱庭や小屋に風力発電機

061 夕雉子断崖高き隠岐島

073 栗飯に隠岐の藻塩をひとつまみ

081 法廷の木椅子引く音冬ざるる

098 安曇野の水のきらめき新豆腐

113 裁判所に別の入口石蕗の花

127 海の日や神社札ある氷川丸

131 鳥渡る一軒ごとに船着場

132 ボーボワールにもノラにもなれず林檎剥く

134 五箇山に味噌焼く匂ひ冬に入る

134 炉語りのグリム童話の怖きかな

135 お手玉の豆鳴る音や冬ごもり

145 ものの芽や埴輪の丸き口並ぶ

148 うららかや関守石の蝶結び

181 鉛筆をみな尖らせて夜なべかな

184 女正月京に五色の金平糖

188 春光や能登の瓦の濡羽色

193 あら汁のまなこの睨む法然忌

198 麦熟るや星のまたたく小海線

216 蒼鷹仰ぐもの我失ひて


 この句集を通読すると、高橋さんが、理系のご出身でありながら、文化面での見識も高く、如何に高尚な趣味をお持ちであられるかが良く分かる。国内は言うに及ばず海外での旅吟が多い。中には啓蒙的でやや報告的な作品も見受けらる。しかし、それらには、疑いなく作者の大きな感動が裏打ちになって存在している。小生は、中から出来るだけ日常を題材にした作品を意図的に選んだ。それが上の句群であった。


 実はこれ以外に小生が興味を抱いた句群があった。それらはみな、小生が行ったことのある地方や国の景であり、「ああ、あの場所だ」と懐かしく思いだせる景に基づいた作品である。その意味で「共時性」が作用して選んだとでもいおうか・・・いや、小生自身の個人的な懐古趣味が選ばせたものだったに違いない。


018 バケツごと貰ふ涸沼の大蜆

 小生はある時期茨城県の大洗町で仕事をしていた。涸沼の蜆は名産品であり、地元の方からバケツで戴き、おすそ分けをしたり、大いに楽しんだものである。懐かしく思いだした。

023 北窓の直哉の書斎青楓

 志賀直哉の旧居跡が記念館として奈良公園のやや奥まったところにある(高橋さんが訪れたのは、我孫子の記念館かもしれないが)。小生の現役時代の職場の会長の奥様が直哉のお嬢さんで、小生も親しくさせていただいた。とても奇麗な方です。そこにはご家族の写真も飾られてありました。涸沼の蜆を差し上げたこともあった。

045 ブリュージュのレースの襟やショパンの日

 ベルギーのブリュージュ(運河が奇麗)といえばレースが銘品。お土産にも適切なものでした。ただし「ショパンの日」との繋がりが分からない。命日は10月17日らしいが・・・。

045 アルプスの漢の墓や薄雪草

 スイスのクライネ・シャイデック駅のそばに浅田次郎の記念碑がある。そのことであろうか? 薄雪草はエーデルワイズのこと。これも小生にはなつかしい。

062 オスロ港上向きて食ふ鰊かな

 北欧では小型の鰊(ヘリング)を酢漬けにしたものを一匹ままのみ込むように食べる。そのとき当然顔も口も上向きになる。

070 イグアスの悪魔の喉笛月涼し

 イグアスの滝の真下まで小型の観光船で近づける。当然滝に打たれずぶ濡れになるので、水着姿で乗る人もいる。その滝の下を「悪魔の喉笛」と呼んでいる。

084 世界一長いベンチへ雀の子

 多分私の故郷帯広市にあるベンチでしょう。今はスイスのベンチに世界一の座を奪われたようです。

091 ドレスデンの長き壁画や夏燕

 ドレスデンの名所。ザクセンの歴代の君主の肖像画が城壁にずらりと並んでいて壮観。100メートルもあるとか。

091 ユトリロの白祐三の黒巴里祭

 小生の好きなユトリロ。雪の絵が多い。一方で佐伯祐三は暗い街角の絵が多い。彼の絵もなかなかいい。

094 ゲルニカの馬のいななく敗戦日

 ゲルニカは凄い作品だ。ピカソはあの様式の絵をただ一作しか描いていない。マドリッドで実物をみたが、俳句にもよく取り上げられる。季語は「敗戦日」よりもっと良いのがありはしまいか、とふと思ったが、とりあえずは良いか。

103 ルーアンの火刑の跡や小鳥来る

 ルーアンといえば大聖堂(モネの絵が著名)とジャンヌダルクですね。すぐ近くにランスがあり、藤田嗣治の礼拝所がありますね。

124 ヴェネチアのガラスの小鳥風薫る

 ガラス工芸品の鑑賞が好きでした。ヴェネチアのムラーノ島は全体がガラス工房の島。

124 ラリックの香水瓶の薔薇の蓋

 しがってラリック(フランスだが)も大好き。香水瓶の傑作が多い。出張の度に乏しい小遣いをはたいてガラスの皿や壺を買ったものです。

144 ラリックの玻璃戸の女神春めけり

 これは朝香宮邸(東京都庭園美術館)でしょうか? 


 とにかく小生にとって懐かしく、往時を思い起こさせる作品が多かった。ありがとう御座いました。

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