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龍 太一句集『HIGH QUALITY』




 驚きの句集である。新記録の句集である。

 句集の題名が一風変わっている。あとがきを要約すれば「(入集されている)作品は選者の方々への深甚なる敬意と、一句一句に生命を吹き入れられたもととなる〈品格〉ある選句への深い謝意を表明させていただくものである」とある。

 この句集は、平成三十年度から令和二年度にかけての3回のNHK全国俳句大会での龍さんの特選・秀作・佳作・入選句から成っている。その数は半端ではない。それぞれ著名な選者に選ばれた。いってみれば選者あって初めて日の目をみた句なのである。選者あって初めて高められた句なのである。それで選者への敬意を籠めて『HIGH QUALITY』とした、という説明である。龍さんは、俳句は作者と選者の共同作業でその質が高まるのだから、選者名を明らかにして、その選評をも添えて句集に発表したのだ、という。句集に入れた句にはその選者を名前と鑑賞文とともに掲載するのが筋だという。多くの例ではそこまではしないのが普通なのだが、その気持ちが分からないわけでない。

 新記録というのも説明が必要だろう。それは、①大会での最多記録七回特選の新記録 ②三年連続特選の新記録 ③二年連続複数同時特選の新記録 である。故に、小生はこの句集を新記録の句集だと、冒頭に書いたわけである。

 さて、この句集、飯塚書店、令和3年11月20日発行。序文は「小熊座」の高野ムツオ主宰、栞は津高里永子さん、帯文は「郭公」の井上康明主宰。津高さんの栞には、龍さんの大会での活躍などが詳しく書かれている。

 なお、龍さんの第一句集『セントエルモの火』もすべてNHK全国俳句大会の入選句でなりたっているようだ。


 前書きが長すぎた。作品に移ろう。どうしてもNHKの大会で特選にとられた句を、龍さんの考えに従って選者名とともに挙げよう。原句は正字ですが、略字にしてあるところがありますこと、ご了承ください。特選の評文などは省略します。


平成30年度    

特選

夏井いつき選     木枯の泪のやうな岬の灯

秀作

正木ゆう子選     赤子長睫毛子山羊も馬の子も    小澤實佳作

稲畑廣太郎選     衣を脱ぐ蛇にあらたな天地あり

堀本裕樹 選     卵嚢をかかへ佛間に出づる蜘蛛

堀本裕樹 選     凩や死の瞬間も爪伸びん      高野ムツオ佳作

佳作

稲畑廣太郎選     用水を火が舐めにくる野燒かな

小澤實・星野高士選  卒業の泪押し出す泪あり

高野ムツオ・高柳克弘選 棚田段々春星の解放区

西村和子 選     回り疲れて賣れのこる風車

岸本尚毅 選     夏シャツの貝殻釦公務執る

岸本尚毅 選     消してまた点けて夜明けの夏灯

高柳克弘・寺井谷子選 死者になほこの世の暦盆用意

大串 章 選     全國の正午の時報終戦日

入選約80句は省略


令和元年度

特選

神野紗希 選     火星大接近山蟻畳這ふ   西村和子秀作・高柳克弘佳作

高柳克弘 選     人類の化石は未完天の川

高野ムツオ選     天体は大きな柩渡り鳥

秀作

宮坂静生 選     萍の月夜は浮寝してゐたる

夏井いつき・坊城俊樹選 洗硯の墨の星雲めく盥

佳作

高柳克弘 選     日銀の地下の金塊世は朧

高野ムツオ選     白牡丹羽化のごとくに開花せり

正木ゆう子選     蓼科は諏訪の上澄み朴の花

片山由美子選     カレーの香路地に満ちくる夏夕べ

高柳克弘 選     高層に個室を與へられ金魚

宮坂静生 選     夜の秋や橋にも着物にも袂

神野紗希 選     水音は溪の心音青胡桃

宮坂静生 選     穴に入る蛇はうす目をしてをらん

入選約40句は省略


令和二年度

特選

宮坂静生 選     宇宙船めきて月夜の金魚玉

夏井いつき選     硯海のやうな東京彎に月

秀作

小澤 實 選     春のあけぼの赤子にも草木にも

星野高士・夏井いつき佳作 小雨にも息あるやうに螢の夜

佳作

井上康明 選     生命の根源は水かたつむり

入選約30句は省略


 驚嘆すべき実績である。


 さて、この句集には、NHK全国俳句大会にて入選以上の成績を収めた作品以外にも、「郭公」「小熊座」の所属俳誌および各種俳句行事に投句した作品群が載せられている。中から小生の気に入った句を掲げておこう。


107 笊の雪拂ひてひさぐ紅蕪

130 線狀降水帶の先端蛇の舌

140 大木に體内時計木の根明く

151 一族の血の濃き曼殊沙華の村

一句目、白と赤の色彩の対比の見事さ。小生には輪島の朝市のように思えた。

二句目、日本列島を上空から俯瞰している感じ。飯島晴子の〈さっきから夕立の端にゐるらしき〉よりもスケールが大きい。

三句目、大木に体内時計を感じた感覚の宜しさと「木の根明く」の地貌季語の配合のよろしさ。

四句目、曼殊沙華がその土地の強い血族を感じさせてくれる。高麗からの渡来人の跡が残る巾着田を、小生は思った。


とにかくいろいろな意味で刺激的な句集でした。多謝々々。

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