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怜玢
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倧石 恒倫 「倢」を読んで

 『俳句の杜』 粟遞アン゜ロゞヌより


   

 倧石さんの䜜品句は「倢」ずいうショヌト・゚ッセむから始たる。「倢」にかかわる芭蕉・兜倪・完垂などの著名な俳句を挙げ、その䞭に次のような䜜品を亀え、

  倢殿をたた通り過ぐ春の倢   塩野谷仁

  回廊のどこたでが倢冬の鹿   枅氎 䌶

  倢ですか金朚犀の銙の行方   五島瑛已

  石けりの小石を探す春の倢   倧石恒倫

䜳い句を䜜りたいずいう「願望的な倢」が「はかない倢」になりそうだずの心配を曞いおいる。そしお、芚めおいおは思い浮かばないような奇想倩倖な俳句や物語の倢を芋るには、楜しかった諞々を思い起こし眠りに぀くこずだずいう。倧石さんの楜しい思い出は、フランスのぶどう園でアルバむトをしたこずずか、ただ寝そべっお長い間、空を芋おいたこずであったようだ。

  雑談のような蚺察花アカシア

 最初に取り䞊げるのはこの句である。倧石さんは九十四歳の倖科医。実は倧石さんを良く存じ䞊げおいる人が小生の友人にいお、圌によれば、倧石さんは高霢ゆえもう倖科医院を閉じられたが、同じ敷地内に身内が内科医を開いおおり、そこをずきどき手䌝っおいるらしい。倧石先生ファンが倚くお、そうする必芁があるのだそうだ。説明が長くなったが、これで「雑談のような蚺察」の意味が分かっおもらえるだろう。もう少し蚀わせおもらえば、最近の蚺療は、若い医垫が怜査デヌタのコンピュヌタヌ画面ばかり芋おいお、患者の顔を芋ない堎合が倚いようだ。顔色や肌の色぀やが肝芁なのに、腹立たしいこずこの䞊ない。倧石さんの蚺察は、䞖間話から始たるのだろう。理想的である。

 倧石さんは、俳句を八十歳から始め、「遊牧」などに所属し、句集は䞉幎前に『石䞀぀』を䞊梓しおいる。

  芋぀めれば䞀぀は朚霊二重(ふたえ)虹

ずきどき「二重虹」を芋るこずがある。その䞀぀は「朚霊」だずいう。確かに二぀のうち䞀぀はやや薄い。それが濃い方の虹の「朚霊谺」なんだずいう意味だろうか。童心いっぱいの面癜い芋立おである。メルヘンの様でもある。ショヌト・゚ッセむに倢を曞くひずの感性がここにも出おいる。

  花菜挬い぀より父の無骚消え

  修叞の忌父䌌の背䞭さみしくお

  すかんぜや母探すなら隠れ沌

  葱切っお亡母の䌏目に逢いにゆく

  青鬌灯南冥に兄氎挬きたる

 無骚だった父が䞞くなった。「花菜挬」がしぶい。母は「䌏し目」がちの人だった。これらからご䞡芪のお人柄が想像できそう。「葱切っお」がなかなか思い぀かない。兄䞊は南の海で戊死されたようだ。戊時䞭、倧石さんはただ軍隊にずられる幎霢ではなかったようだ。小生は、実は四人兄匟の末っ子だった。長兄はただ城兵される幎霢でなかったが、数幎違っおいたら、ずられおいたかもしれない。戊争で子を倱くした芪たちが倚かった。子䞀人に぀き芪は二人だから、悲しみは二倍。やるせない思いである。

  たがろしの倜汜車が路地にかき氷

 なぜか私は攝接幞圊の〈露地裏を倜汜車ず思ふ金魚かな〉を思い出した。攝接の句はノスタルゞヌの句だが、倧石句もそうなのであろう。「倜汜車」に乗っお遠くぞ行くのが、子䟛の頃の憧れだった。脳裏には、その「倜汜車」がやすやすず近所の「路地」に入っおきお、なんずその䞭に自分が乗っおいる。そしお「かき氷」を食べおいるのだ。懐かしい「倢」かも知れない。

  初えくが老垫の歌はパパゲヌノ

  ゚ゎンシヌレ萜莫ずある花の倜

  ショヌトボブ斜めに流し立倏かな

  春の蝶地䞋でモンクのゞャズピアノ

  ディスカりの冬の旅聞く癟合鷗

 「初えくが」初笑いを䜿いこなした句に初めお出䌚った。調べたら京極杞陜に〈その人に浮かばしめたる初靚〉が芋぀かった。それよりもこの「パパゲヌノ」には恐れ入った。モヌツアルトの「魔笛」の䞻人公で自殺願望をこらえる人の代名詞的な存圚ずしお䜿われおいるようだ。決しお健康的でない画颚の「゚ゎンシヌレ」に「萜莫」はうたい。倧石さんの興味は若い女性の髪圢「ショヌトボブ」にも及ぶ。「モンク」は米囜のゞャズピアニスト。「ディスカり」はドむツの声楜家で「冬の旅」が有名。「冬の旅」はこの堎合は季語にならないから「癟合鷗」を配合した。気配りが现やか。

 倧石さんの関心の領域は広い。

  ガりディの未完のドヌムしぐれ虹

  斑雪ラスコリニコフが斧を振る

  ラファ゚ロの聖母子眠る蟰雄の忌

 ガりディ、ラスコリニコフ「眪ず眰」の䞻人公で、斧で人を殺めた、堀蟰雄などにも関心があるらしい。「蟰雄の忌」は二句ある。䞖界の芞術党般に幅広く関心が及んでいお、それが句材になっおいる。


 倧石句には俳句ずしおは意倖性のある句もあるが、おおむねは平明な句である。しかし、平明に芋えお、私にはけっこう手ごわい句もある。

  鎛鎊にふた぀の倕日逗(ずど)たれる

  春の闇真氎求めし倧愚など

  サングラス我の倉異に逢いにゆく

 「ふた぀の倕日」が難しいし「逗」も然り。「鎛鎊」は矜の色調が鮮やかで矎しく、い぀も「番ひ」で寄り添っおいる。そこに「倕日」が圓たっお、あたかも二぀の倕日が氎面に浮いおいるようだ、ずいうのであろうか。自分ながら䞋手な鑑賞だず思うのだが、景は矎しい。二句目は、酒を飲み過ぎお倜䞭に起きだし、冷たい氎を飲むのだろうか。深酒をし過ぎた自分を「倧愚」ず客芳的に衚蚘した。だが「など」が難しい。もっず深い寓意がありそうだ。䞉句目も「逢いにゆく」が第䞉者的衚珟で面癜い。「倉異を確かめに」ずするのが普通なのだが、「倉異に逢いにゆく」で成功した。


 小生にずっお興味深い䜜品をいく぀か鑑賞したが、抂括的な感想を述べれば、この䜜品集は、倧石さんがその広い趣味の䞖界を遊ぶ句から成っおいお、䞀か所に留たらず、次から次ぞず倢を远う若い粟神性をもった人の䜜品集である、ず蚀えそうである。老境にあれば、普通は完成床を重芖した枯れた句を詠むのだが、倧石俳句はそうではない。

 ただし、次のような句もあり、私ずしおは嬉しくなるのである。

  はなびら逅倕べ密かな老い二人

                     本阿匥曞店 幎月日発行

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