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怜玢
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秊 倕矎句集『金の茪』



 倧ベテランの秊さんの第十八句集である幎月日、ふらんす堂発行。氏は「豈」所属で個人誌「」を発行されおいる。『金の茪』は小川未明の童話の題名からずられた。「金の茪」ずいうこずばが浮んですぐに〈金の茪をくゞる柩や星涌し〉ができたずいう。未明の童話も実䜓隓から生たれた。衚珟者は実䜓隓に根差したものしか曞けない。しかし、倢はいくらでも繰り広げられる、ず秊さんは「あずがき」に曞いおいる。だからであろうか、「倢」がずころどころに出おくる。


 自遞句は次の通り。


  倢の字は艞(くさかんむり)や倏嵐

  曇倩を流るゝ時間ちやんちやんこ

  その声はたしかに異界黄氎仙

  䞍死鳥の頁に付箋倧倕焌け

  しらみゆくこの䞖の䞈の火吹竹

  正倢に赀のきはだ぀寒さかな

  青銅のキリストおはす雪の闇

  金の茪をくゞる柩や星涌し

  黒猫のすゞしくあゆむ奈萜かな

  ありふれた雚です爆心地の四葩

  八月や息するうちを人ずいふ

  さみしいずいぞぬさみしさ花石抎

  倜は雲のながれやたざり遠蛙

  その時は目を぀むりたせう玉子酒

  胎内や枊たき昏るゝ飛花萜花


 小生の感銘句は次の通り。印は自遞句ず重なった。


 倕顔やゆるく心をあそばせお

 花石抎あざずき倢のひずかけら

 倧西日もど぀おはこぬブヌメラン

 寒玅やうらみ぀らみも぀たらなし

 きしむかな真冬の倢の入り口は

 吹かれ぀ぱなし茅花も遠きはらからも

 遠野火や魂ひず぀おきざりに

 川開ふはず男のにほひしお

 おんたんず日はたた昇る糞蜻蛉

 正倢に赀のきはだ぀寒さかな

 音たおゝ狐火生るゝ筑玫かな

 深沈ず枯野は人を恋ひにけり

 迷宮ぞふる雪の銙のほのあたし

 虎杖に氎音ずゞく叀戊堎

 雷鳎に砂挠の花のひらくかな

 黒猫のすゞしくあゆむ奈萜かな

 ありふれた雚です爆心地の四葩

 芋えぬぞえ青い小鳥も金の茪も

 冷やかに指茪ありけり遊園地

 敗戊日振子のいらぬ時蚈ふえ

 歯固めの箞おく「銀の匙」もおく

 麊秋や぀ゝがなく織る黄八䞈

 遠雷に孔雀の檻のたぢろぎぬ

 薔薇に雚ずおも死ぬずはおもぞない

 髪掗ふ故郷は熱をもたざりき

 曇倩や鮎の背びれの食り塩

 髪掗ふ冥府の颚のほのあたし

 戰たたあるか湖畔をよぎる蛇

 さみしいずいぞぬさみしさ花石抎

 八月や息するうちを人ずいふ

 傟ぐずき別の䞖にほふ秋日傘

 満月は獣のにほひずゞめけり

 既芖感の闇青臭し秋蛍

 その時は目を぀むりたせう玉子酒

 枯尟花揺れざた぀かむ光かな

 倜は雲のながれやたざり遠蛙


 この句集を読み始めお気が付いた。倚くの平均的な句集ず持ち味が違うのである。予定調和的な句が少なく、難解な句がかなり倚い。しかし、䜕床か読むうちに、刀然ずしないものの、觊発されるものを感じた。䞀般に、平易な俳句は、すんなり通り抜けおしたっお、読者に残るものが少ない。だがこの句集の、小生にずっお難解ず思われる句の堎合は、ああでもこうでもないず懊悩しながら、勝手に別の季語や蚀葉を入れかえたりしお、わたくし流の句を曞いおみたくなった。その点、あたりにも分かり易い句や、こうずしか読めないような句よりも、よほど楜しい句がこの句集に䞀杯である。その意味で「啓発される」句が倚いず気づいたのである。

 結果的に共鳎句の数はかなり倚かった。難解な句矀の䞭に、予定調和的でなく、分かったず思う句があるず、印象床が高くなり、぀い、戎いおしたう。自遞句ず重なった句の数が䞃句ず、これは通垞の句集の堎合ず比べお極めお倚い。嬉しいこずである。


 幟぀かを鑑賞したす。


 雷鳎に砂挠の花のひらくかな

 特殊な条件䞋で砂挠にも花が咲くようであるチリやりズベキスタンの砂挠。぀たりこの句は本物の花を詠んだのである  かどうか、実は、確かではない。砂挠に雷が鳎るこずは皀有の事であろうし、「砂挠の花」ずいう曲や小説があるようなので、自信がない。だが、小生にずっお「砂挠の花」ずいわれるず、砂挠で硫酞カルシりムなどが固たっお星型になったり、薔薇の花のような圢になるこずがあり、そのこずかずも思われる。砂挠のお土産ずしお「砂挠の薔薇」がある䌚瀟の豪華な応接宀に食っおあるのを芋たこずがある。そう考えれば、鉱物である「砂挠の薔薇」が折からの雷鳎によっお呜を䞎えられたかのように「ひらいた」ず感受するのは極めお詩的である。

 䞍確かなので、あたり意味を求めなくおも、これはこれで面癜い句であるず感じた。


 ありふれた雚です爆心地の四葩

 広島であろう。雚の䞭に玫陜花が咲いおいる。黒い雚ではない。平和な「ありふれた」雚です  ずいっおいる。悲劇の街に、今はごく普通の雚が降っおいお花が咲いおいるのだ。そういわれるず読者はいろいろ考えこむ。秊さんの蚀わんずするずころを、いろいろ思いめぐらす。楜しい思玢の時間を䞎えられた感じ。安寧がもどった広島の日垞を思った。


 敗戊日振子のいらぬ時蚈ふえ

 昭和二十幎八月十五日。あの頃は、掛け時蚈はみな振子匏だった。今は電子仕掛けで、振子どころか針さえない。生掻の堎から消えたものが随分ず倚い。ダむダル匏の電話もなくなった。公衆電話も消えかかっおいる。いや、街を闊歩しおいた軍人さんも消えた。戊争を知っおいる人も少なくなった。


 髪掗ふ故郷は熱をもたざりき

 自分のこずですが、生たれ故郷も随分ず倉わった。父や母が健圚なころは、故郷に垰る機䌚が倚かった。今では段々ず故郷ぞの思いが薄れおきおしたっおいる。髪を掗うずき、ふっずそんなこずを思うのである。


 八月や息するうちを人ずいふ

 「八月」ずいうずどうしおも敗戊を思う。死者を思う。日本人にずっおは特別な月である。「息する」は生きおいる蚌拠。生きおいる間のみが人間でいられるのである。蚀倖に死んだら尊厳も䜕もない、ずいっおいるのか。あの八月を境に、生きおいるのは人間で、それ以前は息しおいおも人間でなかった、ずいっおいるのか。はっきり曞かれおいないので、思玢が぀づく。その意味で、いろいろ考えさせられる句である。


 有難う埡座いたした。

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