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山本こうし句集『マズルカ』




 山本こうしさんの句集『マズルカ』。一〇〇頁に満たない文庫本サイズの瀟洒な句集である。小生も最近このサイズの句集を出したので、興味を持った。句数が少ないのも厳選の結果と思えば、納得できる。あくまでも個人的な好みであるが、一頁に二句なのもよい。二〇二二年六月三十日、喜怒哀楽書房発行。


 作品はしっかりした意思やテーマ性やセンスに満ちており、小さな句集ながら、結構、刺激を戴いた。小生の感銘句は次の通り。


008 第四は志望といはず養花天

021 カデンツァのやうなる桜吹雪かな

030 母の忌や冷房弱く茶を熱く

033 噴水の向かう側には逝きし人

038 子の覗く父の手囲ひ螢狩

041 転校す阿蘭陀獅子頭連れて

049 終戦日勝ちたかったといふ老人

053 爽籟や胸ごと開く手風琴

061 無花果を食べしころより逃避癖

077 とつくりセーター首出すまでは息止めて

084 落ちし星聖樹へ戻す警備員


 この句集、先に書いたように、小型・瀟洒・厳選・頁制限など、表現者の最低限の要請に従った範囲で合理性のある句集である。小生の第二句集『SMALL ISSUE』もそうだったからいうのだが、標準的句集の習慣を破っている。たとえば各章の中扉の裏側の頁は、普通は空白にするのだが、この句集は、作品を載せている。まさに合理的である。句集編纂の常識を逸脱していることを、小生は良しとするが、違和感を持つ方もおられよう。

 問題は中身である。小生は結構気に入っている。一句だけ挙げよう。


049 終戦日勝ちたかったといふ老人

 正直な句である。戦争が終わってから、我が物顔に戦争批判論を展開する向きが多いが、当時の人々は真に勝利を願った。金子兜太だってそうだった。それを「俺はもともと戦争反対だった」などと主張するのは如何なものか。戦争に反対できなかったことを悔やむなら、それは許されるのだが・・・。


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