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宮谷昌代句集『竹の春』

 


 宮谷さんは木田千女の「天塚」を継いだ主宰。師同様「狩」にも入会、その繋がりで「香雨」の創刊同人でもある。帯には片山由美子さんが「いつも前向きで明るい」と書いている。


 自選12句は次の通り。


  煩悩の数と思へり落椿

  前へ行くときは前見てチューリップ

  生まれたる数だけ消えてしやぼん玉

  滝の前いつしか滝になるわたし

  紙魚育ついづれは反故となる蔵書

  秋茄子傷に貫禄ありにけり

  そろそろと思うてをればばつたんこ

  子と遊びたくてどんぐり拾ひけり

  善悪の隙間を生きて竜の玉

  ありがたうは結びの言葉冬灯

  一つとは限らぬ答へ花八手

  天命にゆだねて励む竹の春



 小生の感銘句は次の通りでした。


010 音どれも少し違へて土鈴雛

018 ほうたるや星にも生死あるといふ

025 朝顔や伸びて二階をよろこばす

027 教室の中まで稲を刈る匂ひ

035 碁盤目に居並ぶ胴着初稽古

053 極楽へ行ける気のする初湯かな

059 一樹とは思へぬほどの花吹雪

071 花芙蓉霧吹くほどの雨に濡れ

075 露けしやボタン押さねば開かぬドア

079 牡蠣焼けばたちまち海の匂ひけり

097 そろそろと思うてをればばつたんこ

107 初曆掛くれば時の走り出す

108 後ろから猫背叩かれ初詣

111 生まれたる数だけ消えてしやぼん玉(*)

128 この先にもう家はなし牡丹鍋

132 初詣なにはともあれ列につく

137 水拭きのあとの乾拭き涅槃西風

139 退院はわが誕生日桃の花

140 鴨引きて湖は力を抜きにけり

150 噴水の上がりて風の新しく

156 セザンヌの絵を真似て盛る秋果かな

176 学校のチャイムの届く茶摘かな

192 皿の上にのせたきやうな月上がる


 視覚を主体として、自らのアンテナに働いてくる感受を、とても素直で平明な言葉で書いている。解釈に迷う句はほとんどない。その意味で読み手に負担をかけることなく、安心しながら読める句集である。


 自選と重なった一句を鑑賞しよう。


111 生まれたる数だけ消えてしやぼん玉(*)

 目の前の当たり前の現象を詠んだ。しゃぼん玉のこの事象に、人の命の儚さとか、盛者必衰とかを重ねて読む必要はない。むしろ淡々と進んでゆく世の中の現象を思えばよい。自分の句で恐縮だが、以前、百日紅の幹をみていて〈のぼる蟻ほぼ同数の下りる蟻〉と詠んだことがある。それで、宮谷さんのこの句が、私の琴線を打ったようである。


 第三句集、おめでとうございます。そして、有難う御座いました。

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