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鈴木総史句集『氷湖いま』



 鈴木総史さんは俳句甲子園をきっかけに作句を開始、「群青」(櫂未知子・佐藤郁良共同代表)で研鑽を受け、北海道に職を得てからは「雪華」(橋本喜夫主宰)に入会。北海道新聞俳句賞本賞、星野立子新人賞を貰っている。この句集は逆編年体で組まれ、ふらんす堂が2024年3月3日に発行した。

 序文と跋文は櫂・佐藤両代表が分担し、栞は橋本主宰が書いている。それらはいずれも鈴木総史の俳歴と資質を丁寧に紹介している。一読し、感銘したので抄録しよう。

 櫂代表は、〈氷湖いま雪のさざなみ立ちにけり〉が北国の厳しい自然を、客人と生活者の双方の目の融合をもって描いている、と称賛している。総史君には、同輩たちがつぎつぎと大きな賞を貰っているのに、取り残されていたつらい時期があったので、北海道に移った際にも総史君のことを心配していた。指導している北海道での句会に彼が参加して詠んだ〈林檎狩脚立に少し海の香〉などを引き、北の地に根を下ろした者の決意を感じ取り、氷と雪に閉ざされた蝦夷地での歳月が、総史俳句を開花させた、と激賞している。この弟子に対する愛情は半端ではない。

 佐藤代表は、やはり総史のつらかったであろう初期の状況に触れ、「総史君は持ち前の明るさと根性で乗り越えた」と書いている。彼が旭川に赴任してからも「雪華」に参加するなどして、俳句を続けたことでますます力をつけて行った(橋本主宰も「銀化」で櫂・佐藤と句座を囲んだ仲間だった)。北海道の雄大な風土に出会ったことが、総史の句作に力を与えた。旭川で伴侶に出会ったことも紹介されている。愛情のこもった跋であった。

 橋本主宰の栞も紹介したい。氏は総史俳句を冷静に論評しようと筆をとったのだが、自然とその才能を褒めることに傾いて行った。〈とんぼうや蝦夷にあをぞらあり余る〉をあげ、温暖な地で育った者が、北の自然の厳しさに触れたときの驚きが、優れた俳句を作らしめたのであろう(細谷源二も「雪華」の松王かをりもそうであった)と書いている。〈氷湖いま雪のさざなみ立ちにけり〉や〈しののめや凍てつきやすき場所に橋〉もその例である。氏は、総史俳句を賞賛したうえで、やはり、俳句の里親として、辛口なことを言いたい、と断りながら「うまい俳人になるな」と、彼の「うまさ」に警鐘を鳴らしている。


 自選十句は次の通り。


  立子忌の咲いて名前も知らぬ花

  生きるにはふるさとを欲り夏蜜柑

  血の記憶ありさうな孑孑ばかり

  メロン食ふたちまち湖を作りつつ

  わたつみの光なら欲し葡萄棚

  林檎狩脚立にすこし海の香

  虫籠を湖の暗さの物置より

  さざなみは船の届かずカーディガン

  灯を点けて塔の全貌夜鳴蕎麦

  ためらはず踏め樏(かんじき)の一歩目は


 一句目の立子忌は三月三日。この句集の発行日付でもある。総史君が星野立子新人賞を貰っていることは既にふれた。


 小生の感銘句は次の通り。


027 修司忌の傘をひらかぬほどの雨

032 夏の風邪あらゆる扉やや重く

032 誰も褒めてくれぬあかるさ誘蛾灯

051 ぱらぱらと風あそびだす野焼かな

053 とつぜんの雪を愛してリラの花

064 ワイパーの拭ひきれない霜の花

072 起き抜けを地震とも思ふ吹雪かな

079 花冷や猫からまつて箱の中

101 野遊の子は花の名で呼ばれけり

102 無駄のなきあをぞらであり百日紅

114 夜となればまぶしき駅よポインセチア

117 沸き立つてこその鍋焼饂飩かな

128 握りかへすための手であり青田風

138 冬空へ紙のひかりを干しにけり

145 あはうみに遮るもののなく日永

146 いちまいの湖へ帰雁のこゑ満ちて

149 くびすぢに花びらのある花見かな

155 美しき高さありけり合歓の花

158 眠くなる素秋の川を聴けばなほ

161 傘は雨をわづかに許し草の花

167 悴むや本は開けば古書となり


 イチオシというわけではないが、北海道出身の私に特別に懐かしい一句を挙げておこう。


064 ワイパーの拭ひきれない霜の花

 フロントガラスの「霜の花」は美しい。ワイパーを動かしても拭えない。暖房を入れてゆっくり融かすか、ぬるま湯をかけて流すかせねばならない。あまり詩的ではない生活句だと見過ごしそうだが、厳寒期の「霜の花」は、くりかえすが、美しい。


 謹呈の短冊に、旭川ではなく、松江の住所が印刷されていた。総史さんは転勤されたのであろうか。あのしっとり感のある松江の佇まいを、私は、いま思い出している。北海道とはまた違った自然と文化に触れ、また違った俳句を詠まれることであろう。



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