岩田さんは2020年の角川賞受賞者(21歳の最若年)。開成高校で佐藤郁良さんの指導を受け、俳句甲子園で優勝している。石田波郷新人賞や俳人協会新鋭評論賞をも貰っている。俳句界の若きサラブレッドである。「群青」に所属し、櫂未知子・佐藤郁良代表に師事。郁良さんの跋が随分と参考になった。ふらんす堂、2022年12月11日発行。
好きな句が多すぎて困ったほどである。
011 天の川バス停どれも対をなし
011 旅いつも雲に抜かれて大花野
014 まだ雪に気づかず起きてくる音か
016 紫木蓮全天曇(どん)にして降らず
017 深大寺
東国のほとけは淡し藤の花
024 白式部手鏡は手を映さざる
028 履歴書と牛乳を買ふ聖夜かな
031 ぺるしあに波の一字や春の星
036 冷蔵庫真夜中の貌てらすべく
040 晩夏光鍵は鍵穴より多し
044 甲斐 境川
綿虫は空がこはれてゐるといふ
048 国鉄のころよりの雛飾りけり
055 石鹸玉生るるときの長細く
059 柳揺れ次の柳の見えにけり
068 銀閣のまへを吹かれて氷旗
069 苔生して滝の弱まるあたりかな
070 巻尺をもつて昼寝のひと跨ぐ
071 蚯蚓死すおのれの肉と交叉して
072 ナイターのなかぞらに雨見えてをり
078 あとはもう案山子に着せるほかなくて
080 野分去る万力に錆浮きにけり
082 にはとりの歩いてゐたる木賊かな
083 鹿の目の中をあるいて白い服
087 若くして内むらさきを鬻(ひさ)ぎけり
093 窯変は信長のころ雪催
095 横浜港
愛日の海にあそんで大人たち
096 花脊花折とつめたい杉をゆく
102 安房 大山
なにが悲しくて千枚みな春田
106 立ちて坐りて卒業をいたしけり
110 擂りすすむ山葵の向を変へにけり
112 ぼうたんの黄金(きん)ゆりこぼす花の内
123 二種類の吸殻まじる夕焼かな
126 空豆は薄き二片に分れけり
146 近江
雪国へ入りぬ奇麗に箸割れて
157 弱さうな新社員来る湊かな
好きな句のイチオシは次の句。
011 旅いつも雲に抜かれて大花野
郁良さんの跋で、この句が俳句甲子園で個人最優秀賞を貰った句と知り、さもあり何と納得した。
個人的な好みでは「ただごと」的俳句が良かった。
059 柳揺れ次の柳の見えにけり
110 擂りすすむ山葵の向を変へにけり
126 空豆は薄き二片に分れけり
大袈裟なことは言わない。これが俳句なんだとつくづく思う。
一回性の妙味を表わした句もあった。
070 巻尺をもつて昼寝のひと跨ぐ
青春詠の代表が011(旅いつも)だとすると、070ような句は、「ただごと」的俳句と同様、老練・熟達の境地ともいえそうである。
二物配合の句が多く、そのとばし方に、小生が付いていけない距離感のものが沢山あった。しかし、いずれもが、刺激的であった。好みとしては、「ただごと」であるような句や、ただ一回性の場面を詠んだ句に多く魅かれた。衒学的な作品も目立ったが、小生の勉強になったので、良しとして受け止めた。
先の小山玄紀さんの『ぼうぶら』同様、将来、恐ろしい青年俳人である。
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