金子敦句集『ポケットの底』
- ht-kurib
- 2 日前
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金子さんは「出航」(森岡正作主宰)のひと。俳句の世界ではよく知られておられる方である。この句集、実に第七句集とのこと。その旺盛な表現意欲には脱帽である。2025年5月27日、ふらんす堂発行。
小生の感銘句は次の通り、多数に及んだ。
008 春浅し水栽培の根の真白
008 彫像の鎖骨の凹み冴返る
010 絵馬すべて家のかたちや花明り
011 いくたびも捩じられ象となる風船
012 消印は縦に流るる春の川
016 郵袋のへなへな置かれ油照
018 交番の机の上の西瓜かな
019 流星はしろがねいろの栞紐
030 雨だれの真白き音やシクラメン
031 水平になれぬシーソー鳥雲に
032 囀や食パン一切れづつに山
039 釘箱に釘のひしめく終戦日
042 猫の来て家族の揃ふ良夜かな
046 冬薔薇の棘削ぐのみのアルバイト
047 キリストの大きな欠伸聖夜劇
047 寒波来るポテトチップの反り返り
053 紙雛にちよんと描き足す笑窪かな
055 種蒔いて父の口数多くなる
064 消しゴムに果実の香り小鳥来る
067 大根を洗ひたる手を洗ひけり
074 恋猫の声のときどき丸くなる
077 春昼やぱふんと終はるマヨネーズ
088 息白くゴールテープを持つ係
098 永き日や茶碗は沈み箸は浮き
101 向かう側からも覗かれ熱帯魚
104 八月や土すこし減る甲子園
112 冬銀河よりアラザンの零れ落つ
気に入った作品が多すぎて、困ったほどである。一見、ただごとに見える句があり、それが私には柔らかな俳味を齎してくれた。深刻な社会詠も境涯句もない。柔らかな日常詠を、小さな発見を、日常の平明な言葉で描いている。また、季語が実によく効いている。
次のような句の味を、小生は、読後もじっくり噛みしめている。
010 絵馬すべて家のかたちや花明り
016 郵袋のへなへな置かれ油照
031 水平になれぬシーソー鳥雲に
032 囀や食パン一切れづつに山
077 春昼やぱふんと終はるマヨネーズ
098 永き日や茶碗は沈み箸は浮き
読んでいて楽しくなる句集でした。有難う御座いました。
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