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津高房子句集『霞草双手に抱けば』

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 著者の津高さんは、昭和九年生まれ。俳句は「未来図」に入会、同人ののち、「鷹」入会、そして同人。序文は、小川軽舟主宰が書いておられる。同氏は、帯に次の句を取り上げ、    

   祇王寺の松の時雨と聞きにけり

「中七が〈松の時雨〉だったらこの句の情趣は損なわれる。〈松の時雨〉の助詞の妙によって、私たちも平家物語の昔に誘われる。『この違いがちゃんと解る?』と年少の選者を試すような貫禄がある。房子さんは選者の私を育てながら、自身も俳人として独り立ちしていったのだ」とある。優しく謙虚な言葉である。(傍線は栗林)

 あとがきを読んで、私は、著者が津高里永子さんの御母堂で、この六月にお亡くなりになられたと知った。九十歳であられた。合掌。角川文化振興財団、令和六年六月三十日発行。


筆者の共鳴句は次の通り。


018 嫁かぬ気の肩まで長き髪洗ふ

021 肩寄せ合ふことを失ひ冬木立

030 涅槃会や借りたる傘の柄の太し

042 露けしや外して熱き馬の鞍

052 書棚ごとゆづる全集星涼し

061 春風や卵だのみのわが昼餉

062 麦秋や散骨したき嶺幾重

066 風颯々わが入る墓を洗ひけり

079 寡黙もて子とたたかへり石蕗の花

084 猫の子にももいろの月のぼりけり

110 晩涼や鏡伏せればわれ消ゆる

130 いちめんの萍日照雨過ぎしあと

134 鳩と踏む霜の枕木明日あるなり

141 船笛の谺雪後の天昏し

145 わが死後も永らふ金魚ならば飼ふ

170 麝香炷きあり晩涼の青畳

173 抽斗の仕切に小箱冬ぬくし

180 祇王寺の松の時雨と聞きにけり

190 俎に注ぐ熱湯雪降り来


 小生のイチオシは、軽舟さんの影響もあるが、祇王寺の景が目に浮かぶので、この一句にしよう。


180 祇王寺の松の時雨と聞きにけり

 「祇王寺」が好きな私にとっての「祇王寺」は、清盛と祇王らの座像もさることながら、嵯峨菊と円窓である。そして、その場の静かな背景音として、〈松を濡らす時雨の軽い音〉があるのである。広く解釈すれば、津高さんは、別の所で〈松の時雨〉を聴き、「ああ、あの時の祇王寺の様だわ」と思ったのかも知れない。それでもいいのである。



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