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相子智恵句集『呼応』




 相子さんは2009年の第55回角川俳句賞受賞者で、「澤」(小澤實主宰)一筋の方。その第一句集(左右社、2021年12月11日発行)である。

 序文は小澤主宰。その中で主宰は、この句集の題名『呼応』を褒めておられる。「詩とはことばとことばの呼応を書き記したものと考えていたからだ」「取り合わせ俳句はまさに、季語とそれ以外のフレーズの呼応を記したもの。一物仕立ての句においても、ことばとことばの呼応を読み取ることがおもしろい」と書かれている。

 帯の表には、次の句が記されている。

  群青世界セーターを頭の抜くるまで


 自選12句は次の通り。


  火星にも水や蚕の糸吐く夜

  畦焼きぬ焼けざる草の突つ立ちぬ

  ゴールポスト遠く向きあふ桜かな

  桜餅指に蹼ありしころ

  一滴の我一瀑を落ちにけり

  日盛や梯子貼りつくガスタンク

  砂払ふ浮輪の中の鈴の音

  北斎漫画ぽろぽろ人のこぼるる秋

  とことはに後ろに進む踊かな

  遠火事や玻璃にひとすぢ鳥の糞

  雪雲の日裏ずんずん進みくる

  にはとりのまぶた下よりとぢて冬


 小生の戴いた句は次の通り。(*)印は自選句と重なった。


016 梨食ひぬ鼓膜の奥に梨の音

022 掛けて父の背広の重し春の暮

024 君くばるビラ踏まれをり油照

028 古着屋は他人の匂ひ冬の雲

028 プリンやや匙に抵抗して春日

031 まゐつたと言ひて楽しき夕立かな

038 壁紙の嘘の木目やそぞろ寒

042 ひもの屋の干物のための扇風機

044 にはとりのまぶた下よりとぢて冬(*)

045 ハンガーにハンガーかけて十二月

059 火星にも水や蚕の糸吐く夜(*)

062 座布団持ち車掌交代秋の山

070 背泳ぎの一人は曲がり進みをり

088 陽炎やゆつくり閉ぢる欠伸の口

108 箱眼鏡とほくに弟の脚も

148 ほめてほしき人は遠くに星祭

172 身を入れて雨の匂ひの茅の輪かな

174 秋風や瓦礫の中の哺乳瓶

181 箱開けて冬林檎なり雪のにほひ

188 颱風来焼かれて魚の目の真白

190 群青世界セーターを頭の抜くるまで


 いくつかを鑑賞してみよう。


042 ひもの屋の干物のための扇風機

045 ハンガーにハンガーかけて十二月

 一見してただごと俳句のようで、見過ごしてしまいそうになる句であるが、小生には面白く読ませて戴けた。気づきが、この2句を始め、多くの句の原動力となっている。気づいただけでなく、それを句として完成させる力をお持ちだ。そして読者になんとはなしの「面白さ」を与えてくれる。


044 にはとりのまぶた下よりとぢて冬(*)

 この句も気づき「下より」が見事。そうだったなあ、と家で飼っていた鶏を思いだす。しかも「冬」が鶏の閉じた薄い瞼と「呼応」している。どう見ても冬の感じだ。


062 座布団持ち車掌交代秋の山

 琵琶湖側から比叡山に電車で登ったときを思いだした。別の場所や路線でも良いのだが、頂上駅について、折り返しのために、車掌や運転手が座布団や運転に必要な道具(何というのか知らないが真鍮のハンドル狀のもの)を持っておりてくる。ちょっと見たその景が一句となる。「秋の山」もよかった。


059 火星にも水や蚕の糸吐く夜(*)

 小さな気づきの句以外に、このような構成的なスケールの大きい詩的な作品もある。「火星」「水」「蚕の糸」のそれぞれの「ことば」が響き合って、宇宙の雄大な無機物「火星」と、地上の小さな有機物=生き物の命の営為「蚕の糸」と、それを結びつける「水」がそれぞれ「呼応」し一体化し、読者に上質の詩情を与えている。小生イチオシの一句。


 有難う御座いました。

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