柳生正名著『兜太再見』(その2)
第六章 切字「た」の源流を遡る 兜太が切字の「た」を使い始めるまでと、その後の使用状況を、兜太の志向の変化を読み取るように、柳生氏の記述は進む。 連体形の「た」は「忘れた顔」とか「似た風」のように兜太の口語体の俳句に、初期からみられる。しかし下五の「た」は、どうも山頭火を兜...
第六章 切字「た」の源流を遡る 兜太が切字の「た」を使い始めるまでと、その後の使用状況を、兜太の志向の変化を読み取るように、柳生氏の記述は進む。 連体形の「た」は「忘れた顔」とか「似た風」のように兜太の口語体の俳句に、初期からみられる。しかし下五の「た」は、どうも山頭火を兜...
柳生氏は兜太に深く心酔し敬愛した門下生で、「海程」賞や現代俳句協会評論賞を受賞している。この著は、株式会社ウエップから、2022年2月28日に発行された。 兜太に関する評論は多い。小生もわずかな記事を書いたが、最近では、井口時男氏の『金子兜太―俳句を生きた表現者』が兜太論で...
中内亮玄さんが編集・発行する『月鳴』の第三号である(2022年2月22日発行)。俳句に係わる紀行文や作品が掲載されている。会員は地元福井の方々が多いが、それ以外にも、関東やハワイ在住の方もおられる。 会員作品を読ませて戴いたので、感謝を込めて、おひとり一句に絞って、好きな句...
高野礼子の一〇〇句から 高野さんは「風の盆」の町、八尾町出身。祭の日々を除いては、山間の小さな静かな町といった感じである。あの物寂しい胡弓の音と、顔を笠に隠して踊る若い男女の姿が小生の脳裏に生きている。 現在は我孫子にお住まいで、そこで「遊牧」の塩野谷仁(「遊牧」前代表)さ...
第三部 中村草田男(ラザロの眼から詩人(ディヒター)の眼へ) 草田男の作品と論と来し方を丁寧に紹介している。しかも、各句集から主要な作品を抽いて、迎合することなしに論評している。この著『昭和俳句の挑戦者たち』の分量の約半分を占めている草田男論なので、小生のブログに別項をたて...
近藤栄治氏は、高柳重信についての評論により、第30回現代俳句評論賞を受けた評論家で、この著作のほかに『俳句のトポスー光と影』がある。俳誌「青垣」(大島雄作代表)の会員でもある。 本著は創風社出版、2022年3月1日発行。300頁ほどの論作で、副題の通り、第一部(約60頁)は...
岡田さんは「山河」(山本敏倖代表・前代表は松井国央さん)の同人で、山河賞などを授与されておられる実力者である。この句集『ハーブ系』(喜怒哀楽書房、2022年2月26日発行)は、彼女の第五句集である。「山河」の重鎮らしく現代性のある作品が並んでいる。若干の批判性を持った句や物...
松井国央(くにひろ)さんは「山河」の前代表(現代表は山本敏倖さん)。この句集(令和四年二月二十三日、山河俳句会発行)は氏の第三句集。 高野公一さんのまえがきによれば、松井さんが俳句を始めたのが高校時代だとあるから、もう六十五年以上になる。そしてその作品の特徴を、こう書いてい...
津高さんは「未来図」を経て「小熊座」の同人、そして「すめらき」「墨BОKU」の代表であられる。だから師系は、鍵和田秞子、佐藤鬼房、高野ムツオとなる。俳人協会と現代俳句協会の幹事でもある。 この句集『寸法直し』(東京四季出版、二〇二二年二月二二日発行)は、和綴じで箱入りの優雅...
佐藤みねさんは「小熊座」の同人。この句集『稲の香』(令和四年二月二十五日、朔出版発行)はその第二句集で、高野主宰の命名による。それに留まらず、選句も序文も主宰にお願いした、とあとがきにある。 序文によれば、佐藤さんは御子息を亡くされたとあり、土地柄(宮城県遠田郡)から東日本...
略歴によれば、平成29年に俳句を始め、「ひろそ火」(木暮陶句郎主宰)に師事とある。それでいてこの句集は既に第二句集(俳句アトラス、令和4年1月30日発行)であるようだ。それにしては(と書くのは失礼だが)作品は見事にきちんと出来ている。驚きである。...
大ベテランの秦さんの第十八句集である(2022年1月15日、ふらんす堂発行)。氏は「豈」所属で個人誌「GA」を発行されている。『金の輪』は小川未明の童話の題名からとられた。「金の輪」ということばが浮んですぐに〈金の輪をくゞる柩や星涼し〉ができたという。未明の童話も実体験から...
平松うさぎさんの第一句集である(朔出版、2022年1月25日発行)。氏は能村研三主宰の「沖」に2009年に入会し、現在、同結社の同人会常任幹事としてご活躍である。 序文は能村主宰が、跋は森岡正作副主宰が、それぞれ佳句を沢山取り上げて丁寧に書いている。 自選10句は次の通り。...
寺町さんは広島の家庭裁判所でのお仕事を通じて俳句と出会い、平成18年に金子兜太の「海程」に入会、26年に同人、兜太没後は後継誌「海原」に入会された。 お生れは旧満州の大連で昭和21年に引き揚げられた。ご苦労のほどが想像できる(この句集の序文をお書きになられた「海原」代表の安...
山本つぼみ主宰の「阿夫利嶺」の終刊にともない、「あふり」が誕生した。主宰は小沢真弓さん。「阿夫利嶺」はもともと「青芝」(八幡城太郎が創刊、現主宰は梶原美邦さん)にあった「あふり」句会に因んだもの。神奈川県の西に聳える阿夫利嶺から採った名。山本つぼみさんのご回復と「あふり」の...
渡辺香根夫さんが、表記の草田男論を一冊にまとめて出された(編集は横澤放川さん)。三篇の講演録、二篇の評論、晩年の二十年間の草田男作品の多数の鑑賞、などから成っている(二〇二一年十一月二十五日、角川文化振興財団発行)。 小生がもっとも興味を持って読ませて戴いたのは二つの講演録...
相子さんは2009年の第55回角川俳句賞受賞者で、「澤」(小澤實主宰)一筋の方。その第一句集(左右社、2021年12月11日発行)である。 序文は小澤主宰。その中で主宰は、この句集の題名『呼応』を褒めておられる。「詩とはことばとことばの呼応を書き記したものと考えていたからだ...
池田さんの随筆集である。日本経済新聞社出版本部、2021年12月1日発行。60余篇からなる、池田さんの来し方、日常、俳句などにかかわる、軽やかな筆致のエッセイである。このほど読み終わったので、共感した部分、派生的に思い起こしたことなどを、思いつくまま書いておこう。...
平明でユーモラスな句が多く、愉しい気分で読み終えた句集でした。 細谷さんは在学中に石川桂郎に師事、昭和45年に「風土」同人。その後「一葦」の創刊同人。現在は「件」同人。これは第三句集で、氏には、エッセイ集や坪内稔典・仁平勝との共著『句の一句』など、多くの著作がある。氏は確か...
驚きの句集である。新記録の句集である。 句集の題名が一風変わっている。あとがきを要約すれば「(入集されている)作品は選者の方々への深甚なる敬意と、一句一句に生命を吹き入れられたもととなる〈品格〉ある選句への深い謝意を表明させていただくものである」とある。...